ルンバ・カタラーナのカタラーナは「カタルーニャの」という意味だということは、以前にご説明しました。今回は、このカタルーニャについてお話してみたいと思います。
Catalunyaカタルーニャはスペインにある17の自治州の一つで、その州都は言うまでもなくバルセロナ。スペインは地方分権の国なので、自治州によって程度の差があるものの、各州がかなりの政治的権限を持っています。カタルーニャの自治権は基本的に財政以外の全ての分野に及んでいて、自前の警察を持ち社会保険などの社会サービスも独自に運営しています。
その中でも最も興味深いのが言語。ここではスペイン全土の公用語Castellanoカステリャーノ(いわゆるスペイン語)の他に、Cataláカタラン(カタルーニャ語)という言語が公用語として認められています。この二つの言語には上下関係はなく、平等に使うことになっているのですが、行政関係の書類や教育システムなどはカタランが中心になっています。つまり、公立の学校では授業は基本的にカタランで行われていて、子供たちはカリキュラムの一つとしてカステリャーノの授業を受けるのです。
では、このカタルーニャ語(カタラン)がスペイン語とどれくらい違うのか、お隣の国ポルトガルの言葉ポルトガル語との比較して見てみましょう。
日本語 | スペイン語 | ポルトガル語 | カタルーニャ語 |
私は日本人です | Yo soy japonesa | Eu sou japonesa | Jo soc japonesa |
名前はマリアです | Me llamo Maria | Chamo-me María | Em dic Maria |
英語を話します | Hablo inglés | Falo inglés | Parlo anglès |
犬が好きです | Me gustan los perro | Eu gosto de cães | M’agraden els gossos |
こんにちは | Buenos días | Bom dia | Bon dia |
さようなら | Adios | Adeus | Adéu |
ありがとう | Gracias | Obligado/a | Mercès/Gràcies |
どういたしまして | De nada | De nada | De res |
スペイン語チャンネルのニュースでは、ポルトガル語に字幕がつくように、カタルーニャ語にも必ず字幕が付きます。また、英語のCharlesチャールズは、独語でKarlカール、仏語でCharlesシャルル、伊語でCarloカルロといった風にヨーロッパ圏では一つの名前が言語によって変化するのですが、これもスペイン語/ポルトガル語はCarlosカルロス、カタルーニャ語はCarlesカルラスと異なります。同じロマンス語系の言語なので似てると言えば似ているのですが、やはり違う言語なんですよね。
イベリア半島内で同じように固有の言語・文化を持ちながらも、ポルトガルは一つの独立国家で、カタルーニャはスペインという国家の一部に留まっている。この違いはどこにあるのでしょうか? この状況を理解するために、ちょっと歴史を紐解いてみましょう。
元々イベリア半島は異なる言語や文化を持つ王国がいくつも存在していたのですが、大航海時代に続くスペイン帝国の黄金期フェリペ2世の時代にスペインはイベリア半島の統一に成功、現在のポルトガルを含むイベリア半島全域を支配化に治めます。その後、まずカタルーニャが独立を目指して蜂起し、それに乗じてポルトガルも反乱を起こします。ここが運命の分かれ道でした。
スペインにしてみれば、カタルーニャを失えばヨーロッパ大陸と地中海へ抜ける交通の要所を失うことになりますが、ポルトガルの先にあるのは広大な大西洋だけ。一度に二つの蜂起を納めることは無理だと考えたスペインは、軍隊をカタルーニャに結集させるという決断を下しカタルーニャの反乱を鎮圧、その間にポルトガルは独立を達成します。イベリア半島における現在の国家の枠組みは、この17世紀の出来事が元になっているのです。
実は、私がカタルーニャに興味を持ったのは、ポルトガル留学時代のポルトガル史の授業でこの歴史的事実を知ったのがきっかけでした。実際、ポルトガルとカタルーニャ両方で暮らしてみて思うのは、カタルーニャ文化とポルトガル文化の独自性というのは同じようなレベルのものです。一方が一つの国家でもう一方が自治州という現在の状況を分けているものは、この歴史の偶然以外の何物でもないんですよね。実際のところ、どちらの状況がいいのかはわかりませんが。
というわけで、今回は音楽の話からはずいぶん逸れてしまいましたが、ルンバ・カタラーナを生んだカタルーニャについてお話してみました。こういう背景があるからこそ、現在FORCATが中心となって活動しているように、ルンバ・カタラーナを「カタルーニャの文化」として位置づけようという動きが生まれてくるんですね。
スペインの外に、カタルーニャ語を中心とするカタルーニャの文化を広める活動をしているのがL'Institut Ramon Llullという機関です。2008年の夏にはニューヨークでLa Troba Kung-FúとPeretのライブを行いました。これがその時の模様です。